サッカーライフin Mzk74’s diary

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“ペップ”グラウディオラの憂鬱!? 20-21CL決勝マンチェスターC vsチェルシーを考察!!<後編>

2021年5月29日コロナウイルスパンデミックと世界が戦う中、非日常化した生活を過ごす人々の一つの喜びと希望と成り得るUEFAチャンピオンズリーグ勝戦が行われました。

ポルトガルエスタディオ・デ・ドラゴンで開催されたファイナルでチャンピオンになったのは18-19シーズンのリバプールvsトッテナム以来の、プレミアリーグ対決を制したチェルシーが9年ぶり2度目のヨーロッパ王者に輝く結果となりました。

サッカー界の歴史に刻まれる魅力的なフットボールで世界を席巻した“ペップ”バルセロナが最後にCLを制した10-11シーズンから10年の歳月を経て再び欧州最高峰の舞台に戻ってきたグラウディオラ監督の戦いを考察してみようと思います!!

※<前編>記事に興味がある方はこちらをご覧ください

mizuka74.hatenablog.com

 2ndハーフ

よりオープンでカウンターからチャンスを創出する展開が増えた両チームですが、前半途中で負傷により交代を余儀なくされたチェルシーのセンターDFのチアゴ・シルバと後半キャプテンのデ・ブルイネに替り出場したガブリエル・ジェズースが出場した負傷での交代以外は両監督の立場から逆算した要素が強く反映された選手交代だったと思います。

プレミアリーグとはレギュレーションが違うチャンピオンズリーグは最大5人までの交代が認められていますが、シティーは中盤のバランスを整えるために、ギュンドアンインサイドMFへ1列上げてフェルナンジーニョを投入、左FWスターリングに代えてアグエロチェルシーはプリシッチ、コバチッチの投入で質的優位を担保する為にスタミナとボール技術を伴う局面での優位性を発揮する選手交代が行われました。

ドリームチーム<クライフ>

選手、監督としてバルセロナに哲学を植え込んだクライフに見出されてフィジカルが重視された当時のサッカー界に肉体的な優位性よりもテクニックや戦術的インテリジェンスを最大限に発揮してゲームを支配し、勝利するスタイルでタイトルを勝ち取ったバルセロナの中心選手として活躍した“ペップ”グアウディオラは指導者としてバルセロナBの監督に就任して以来、クライフが提唱しスタイルを基にして自身の戦術眼と選手のポテンシャルを最大限に融合させる感性と、勝利へ向けた準備に裏付けられたプロフェッショナリズムを伴った戦略を結果に繋げて現在の地位を築いた稀代の指揮官だと思います。 

自身がプレーしてクラブ初のヨーロッパ王者に輝いたドリームチームを創ったクライフの思想を受け継ぎ、選手として経験した独自の価値観を醸成させ、将来性豊かな選手を育成してきた下部組織からクラブの哲学を植え込まれた若手を中心に据えたペップのバルサは観る者と対戦相手をも魅了してバルサ哲学の完成系を感じさせる伝説のチームを創りあげたのです。

ボールポゼッション&メッシ=理想のチーム!?

人間が一番器用に扱える手(ハンド)以外の部分で球体のボールを扱うサッカーは不確定要素が高く、魅力的な個人技を駆使したテクニックはもとより、ミスを含む想定外な劇事が勝敗に大きく影響する実際に戦ってみなければ分からないスリリングな要素も魅力的なスポーツ競技として世界的に人気が高いサッカー界の歴史においてもペップが率いたバルサはボールテクニックも含めて戦術的に対戦相手を圧倒した希有のチームだと思います。

70%ボールを保持できれば80%の確率で勝利を手に入れる事が可能だと考えるクラブの哲学を具現化して、更に相手チームを分析した戦略で90%に近い勝率に引き上げた伝説的チームを創りあげました。

ヨハン・クライフフットボールで感じ取った感性を選手としてプレーで表現し、監督に就任してからは自身の哲学を戦術的に落とし込んだプレーモデルを築き上げボールテクニックとインテリジェンスに優れた選手をチームの中心に据えてクレだけではなく観戦する者を魅了するゲームを魅せる一方で、理想の選手を育てるために下部組織からトップチームと同じコンセプトとシステムでトレーニングを積むことで選手の才能を引き出す事にも尽力してバルセロナをクラブ以上の存在を自負するまでになった環境で育成された選手は“ペップ”が思い描くフットボールを具現化できるタレントが揃っていました。

GKビトール・バルデス、DFプジョル、MFチャビ、イニエスタ、FWメッシを主軸に据えて、カンテラ育ちのDFピケをマンチェスターUから引き戻し、自身が率いたバルセロナBからはピボーテのブツケス、FWペドロを抜擢して就任一年目で6冠を達成するチームを創ったのです。

就任当初はフランス代表のアンリ、カメルーン代表エトーコートジボアール代表ヤヤ・トゥーレなどの実績がある選手を起用していましたが、圧倒的なボールポゼッションでゲームコントロールを考える”ペップ”は次第にバルセロナの哲学が体に染みついたラ・マシアで育った選手達を成長させて自身の理想と思われるチームへ変化させていきました。

バルサが圧倒的なボールポゼッションで相手を圧倒すればする程、対戦相手は自陣ゴール前を固めて決定的なシュートを打たせない戦術で対抗するようになりました。

しかし、デビュー当初はドリブル突破からのチャンスメイクが特徴のウイングプレーヤだったメッシは後にゼロトップと呼ばれるCFから中盤に下がって繋ぎの部分に顔を出した後にゴール方向を向いてバイタルエリアに侵入するプレースタイルからゴールを量産するゴールゲッターに変貌してチームを勝利に導きました。

”ペップ”バルサが2回目にCLを制したマンチェスターUとの決勝戦は世界最高峰のレベルながら圧倒的にゲームを支配して伝説的なチームへと登り詰めたと言えるでしょう。

歴史上最高のチームとも評価されたチームが更なる進化を遂げるのは難しく”ペップ”は就任4年目を最後にクラブを離れる決断を下したのでした。

バイエルン・ミュンヘンでの挑戦!!

1年間の充電を終えた”ペップ”が次に挑戦したのはドイツ、ブンデスリーガで圧倒的な強さと歴史を誇るバイエルン・ミュンヘンを進化させる任務を選びました。

前年度は勇退したユップ・ハインケスが率いたチームは3冠を達成して最高のパフォーマンスを披露する選手達を更なる高みに導く挑戦が始まります。

選手個々の能力が高いバイエルンを率いた“ペップ”はポジショナルプレーをチーム戦術の基盤に据えてボール保持率を格段に上げながらも選手の個性をゲームモデルに組み込み、圧倒的な強さでブンデスリーガを制覇してみせました。

リベリ、ロッペンの両ウイングの突破力とレバンドフスキーの得点能力を攻撃時のメインとし、中盤には当時サイドDFだったラームを抜擢、スペインから教え子のチアゴ・アルカンタラシャビ・アロンソを引き入れ、オーストリア代表のアラバをDFとして起用してボール保持と得点力で強力なチームを創りあげました。

ドイツ国内では圧倒的に勝利を積み重ねたヨーロッパの舞台では頂点にたどり着くには至りませんでした。

相手チームを分析してゲームごとに戦術的なプランを遂行しようとする”ペップ”と己の能力だけでも勝利できると感じる選手達との間にバルサ時代のような信頼関係を築くのが難しかった面があると思われますが、シンプルなプレーこそ一番難しいと説いたヨハン・クライフの哲学である「美しく勝利せよ!」を通り過ぎて完璧なプレーを求めすぎて、選手への要求が複雑になりすぎていたように感じます。

プレミアリーグマンチェスターCで新たな冒険へ!! 

クラブ、選手、監督の関係性は一定のサイクルで変化が必要と考える”ペップ”は国内リーグで3連覇したミュンヘンに別れを告げて、フットボールの母国イングランドプレミアリーグに新たな挑戦の場を選びました。

1年目はプレミアの洗礼を浴びてCL出場権を得るまでに止まりましたが、2シーズン目からは選手補強も含めて自身の哲学を選手に浸透させて連覇に導きました。

4年目は名将クロップ率いるリバプールが歴史的な快進撃で優勝してサイクルが下降線に向かっていると考えられましたが、自身初の5シーズン目を同じチームで迎えた20-21シーズンは再びチャンピオンとなり、CL決勝に進出して新たなサイクルへの予感が期待されます。

選手の特徴とポジショナルプレーでゲームコントロールを目指す"ペップ"はバルセロナではメッシをゼロトップで起用して能力を開花させ、バイエルンではラーム、アラバを偽サイドDFとして起用するなど選手の才能を見抜く力に長けた指導者でしょう。

20-21シーズンは今までの経験を組み合わせたような戦術を採用してファイナルへとたどり着きました。

ゼロトップには本来はMFとしてプレーするデ・ブルイネ、ギュンドアン、ベルナルド・シウバなどを起用してカンセロを偽サイドDFとして中盤の組立で能力を引出、大外のレーンではマフレズがハイパフォーマンスを魅せました。

数多くの才能を擁するマンチェスターCの下部組織時代から地元出身で将来を嘱望されてきたフィル・フォーデンもチームに必要な選手へと成長を遂げました。

 

”ペップ”グラウディオラの憂鬱!? 

10年ぶりに戻ってきたCL決勝の舞台でも直近の試合で対戦相手のチェルシーに連敗を喫していたとはいえ、リーグを制したマンチェスターCに分があるとの予想が大方だったと思います。

”ペップ”の理想はボールを握ってゲームをコントロールしながら勝利する事で、毎試合の対戦相手を分析して相手のウイークポイントと自チームのストロングポイントの差を最大限に活かしてゲームを進めようと試みます。

今回のチェルシー相手には中盤で数的優位を生み出し、ボールを動かす事で相手DFラインに隙を創り、選手のクオリティーで得点を狙う戦略を立てていたと思われます。

自身が望む最高の舞台で自身が思い描くゲームを展開する事に妥協はできなかったと思います。

戦前予想されていたスタメンのアンカーにはフェルナンジーニョが有力でロドリの可能性も考えられていましたが、インサイドMFで今シーズンは得点も量産しているギュンドアンを起用したこと。センターFWには今シーズンが最後となるアグエロやガブリエル・ジェズースではなくゼロトップとしてデ・ブルイネ、ベルナウド・シウバを起用したことに中盤でパスを回して相手を翻弄する”ペップ”が望む最高の形をイメージしていたと想像できます。

バルセロナを離れて以降、バイエルンでもマンチェスターCでも選手の能力を引き出して勝利に近づける戦略でタイトルを獲ってきましたが、大一番には自身の理想と思われるゲームにする為に培ってきた哲学を優先してリスクを伴う戦略で臨んでしまうのが”ペップ”の癖であり最大の魅力だと感じます。

彼が理想を求める程、リスクを回避できなくなり、一発勝負のビックゲームでは相手に隙を与えてしまう事を承知で理想を貫く”ペップ”はまさしくクライフの魂を受け継いだ次世代に多大な影響を及ぼす偉大な監督だと言えるのではないでしょうか?